よくある質問に「小学生や中学生など成長期から筋トレをすると身長は伸びなくなるのか?」と言った、当事者にとっては真剣であり、切実な悩みがあります。そこで今回は、低年齢での筋トレによる身長への影響について詳しく考察していきたいと思います。
筋トレをしても身長は伸びる
年齢が低い段階で筋トレを始めると身長は伸びないかと言うことについて説明します。
まず、答えですが年齢が低い段階から筋トレをやったからと言って身長が伸びないと言うことはありません。
身長に影響を与えている要因として最も大きなものは、ひとつは遺伝子、DNAです。それ以外のものに関しては、栄養の状態と運動刺激というものが言われています。
身長に影響を与える要因1 「遺伝子」
遺伝子に関しては、コントロールができないので自分の特性を知る必要があるわけです。
例えば動物実験の場合ですと成長期にどのような栄養を与えると、どのような影響を与えるのかを調べた実験があります。あまり体が大きくならないような実験用の動物に本来食べている食事とは違う食事を与えてコントロールしてみたときに成長期にタンパク質、動物性のタンパク質を多く含む食事を摂らせておくと体が大きくなることが観察されています。
それと同じようなことはトレーニングやコンディショニングの世界でも栄養指導をやっている方々からたくさん報告があがっていて、栄養状態が良好であれば体は大きくなることが観察としてみられています。
身長に影響を与える要因2 「運動刺激」
運動の刺激については、骨格をどのように成長させていくと言うことが直接身長に関わっていくわけなんですが、長い骨を真っ直ぐに立たせるためには正常なバランス感覚、それから適度な筋力が絶対に必要になります。
骨だけが伸びた時に筋力が弱ければ、体は曲がってしまって背骨が円背な状態、猫背の状態とかにもなってしまいます。そのような状態では身長を高く維持することができませんので、やはり必要な筋力と言うものは成長に合わせて付けていく必要があるわけです。
問題はどこに出てくるかと言うと、やり過ぎた場合に骨の骨端繊維というものが骨の両端の方にありますが、そこの成長線の部分を傷つけてしまうと長くならないという問題が起きてきます。
スポーツの世界で言うとオーバーワークに陥ってしまうとまずいわけですから、回復が追い付かないくらい、動くのがきついとか、体の節々が痛むとか、そういった状況がずっと続くようなトレーニングのやり方は間違っています。
運動はするけれど、適度に休みを入れて次の運動のタイミングにはすごく気持ちも高揚してきて、よしやるぞと言うような充実感が得られるような、そのくらい適度な運動プログラムを組んでいくことが非常に重要になってきます。
身長に影響を与える要因3 「栄養状態」
栄養の状態に関しては、エネルギー源の中でも特にタンパク質の量を増やしていく必要があります。つまり、成長期には十分なタンパク質を摂っていくことが重要になるわけです。
例えば、お腹が空いてご飯を食べる時にその比重として、ご飯(米)を山盛りでたくさん食べて、お腹を満たすと言う発想ではなく、どれだけの役に立つ栄養素がその中に含まれているのかという質の部分でコントロールして、できるだけタンパク質の摂取量を増やしていく必要があります。
遺伝子が持っている素質を最大限に生かす
適切な運動や栄養摂取を繰り返しやっていくと、自分のDNAの中でも最大限の体のサイズを作っていくことは十分可能です。
私のスポーツクラブでは下は小学校4年生くらいからジムに通ってきていますけども、筋力トレーニングはすでにやっています。もちろん、その子の年齢に応じて日常生活でどのような運動をやっているのかというものを最初にヒアリングして聞き出した上で、その運動の能力を高めていくというところからプログラムを作っていくわけですけれども、決して多すぎる負荷を与えて疲労困憊まで追い込むことはなく、まずは筋トレの中でも正しい正確なフォームを再現できるようにフォームを覚えてもらうということから繰り返し繰り返しやっていくようなところからスタートします。
正しいフォームで自分のトレーニング姿勢をコントロールできるようにする。おもりを扱うことができる。こういったことをやることによって体には適切な刺激が加わりますし、特に筋トレの場合だとバレーボールやサッカーのようにジャンプを繰り返すようなインパクトの高いトレーニング負荷ではありませんので、しっかり自分の力でコントロールしながらおもりを動かすと言うことで骨に対する刺激も必要な分で抑えて、過剰にはならないというメリットがあります。
適切な食事と運動
このようなことを含めて、自分の遺伝子の持っている素質を最大限に生かすために、栄養の状態をまずコントロールする。もちろん、摂取カロリーが不足していると体は大きくなりませんので、年齢に見合った摂取カロリーというものは確保した上で、その中でのタンパク質の摂取量を増やしていくと言うことです。
体の中で代謝を起こさなければいけませんので、それがうまく進むために糖質や脂質、タンパク質の燃焼を良くして、消化吸収がうまく進むような補酵素、それからビタミンやミネラルといった補助的な栄養素もしっかりと摂ってやる必要があります。
もし、食事の中に含まれていないようであれば、必要に応じてサプリメントなどを摂っていく必要がありますので、ぜひ専門の医師や管理栄養士に相談されるといいと思います。
運動の刺激に関しては、運動のプログラムを作って、それを一定期間維持します。徐々に必ず負荷に慣れて、楽になってきますので、楽になってきたら少しだけ負荷を上げてややきついという感覚を得られるようなレベルまで運動の強度を高めていきます。それに慣らして、食事でしっかりと栄養を補強していきながら、十分に回復をさせて成長を引き出していくことになります。
摂った栄養は体の中で利用しなければ有効活用ができないわけですから、必ず食事として摂る場合に消化吸収、そしてタンパク質の合成というところまで考えていかなければいけません。
食事をどのように効率よく消化し、体の中に取り込むのか?
よく噛む
第一番目は、「よく噛む」ということが必要になります。
咀嚼してよく噛む。口の中ですでに予備消化が起きるくらいよく噛んで食べて、十分に咀嚼したもの、こねったものを胃の中に落としていく。唾液がたくさん出るような食べ方をしてあげないと消化が進まないことも分かっています。
私はトレーニングの指導上、「一口100回」を目標に噛んでもらうようにしています。一口30回という方もいらっしゃいますが、それでは実際には足りませんので、できるだけ多くの回数を咀嚼していくということを考えて下さい。
食事中に水やお茶を飲まない
それができた上で、今度は食事中に水やお茶を飲まないということにも気を付けてもらいたいと思います。
胃の中に入れたものを消化を進めて腸へ送らなければいけないわけですが、胃は一つしかありませんので、食べるものが入ってきたら入り口と出口がふさがるようになっています。そこの中に水やお茶を入れて消化液を薄めてしまうというのはマイナスしかなりません。
そのため、食事中にはできるだけお茶や水は飲まないようにする。水分で流し込まないようにするわけですね。あまり噛まずに唾液を出さないような方の場合は、口の中がモサモサした状態が続きますので、ついつい水やお茶で流し込んでしまうような食べ方、楽な食べ方をしてしまいますが、それは食べることそのものは楽でも体にとっては決して楽ではないということを考えておかなければいけません。
よく噛んで唾液をたくさん出す、唾液をたくさん出すことによって胃液もたくさんできることが分かっていますので、消化のメカニズムをうまく使っていくわけなんですね。
まずよく噛む。そして、食事中に水やお茶を飲まない。そして、食べるものを考えてタンパク質の摂取量を多くする。こういったことをしっかりと繰り返していきながら、適度な運動を行い、十分な睡眠時間を確保することによって、(身長などの)成長は最大限引き延ばすことができると考えられます。
筋トレTV 出演・動画監修
森部昌広 先生
九州共立大学 経済学部准教授・経済経営学科スポーツビジネスコース主任・サッカー部部長、一般社団法人全日本コンディショニングコーチ協会代表理事、一般社団法人日本メンタルトレーナー協会理事、九州大学非常勤講師(健康・スポーツ科学)、財団法人福岡県スポーツ振興公社スポーツアドバイザー、株式会社GET専務取締役、アイ・エム・ビー株式会社取締役、森部塾塾長