子供は身体的には成長途上なので、成熟した身体を持っている人とは分けて考える必要があります。そうでなければ子供を疲労骨折などの障害および外傷の危険にさらすことになり、可能性の芽を摘んでしまうことにもなり兼ねません。そのような事態に直面しないためにどうすればいいのか?スポーツをする子供を守る上での適切な指導方法や考え方などを寄せられた質問を交えて解説したいと思います。
子供に合わせた指導方法を行おう
外傷や障害予防についてというテーマで、いろいろなセミナー会場で実際に出された質問についての回答を説明していきます。
質問(1)
5・6年生のスポーツ少年団活動で、腕や背骨の疲労骨折があった。予防方法を知りたい。
この質問の競技種目は競技人口が多いということもあり野球やサッカーが多かったです。
その中ですでに小学生で骨折があるということですが、どうしてそのようなことが起きるかというと、これは当然のことながらオーバーユースということで(体を)使い過ぎなわけです。体が出来上がっていないのに同じ運動、動きを繰り返すことによって、一箇所に負担がかかってしまうということです。
例えば、上腕骨が骨折したりだとか、あるいは肘関節がおかしくなったり、あるいは腰の腰椎を痛めたりと、こういったことがよく現場で見受けられます。
頻度としては骨折レベルまでになるには時間がかかると思いますが、その前段階として痛みを訴えるようになる。こういったケースが出てきた場合、注意をしていかなければいけません。
予防方法としては、大枠の部分で言うと運動量を制限することです。子供たちが楽しんでやっているから、もっとやらせようということではなく子供なんだと理解して運動の上限を決める。そして、その範囲の中で量を大きくするのではなく密度を高くすることが重要になります。
ポイントとしては、時間をある程度決めて、それ以上延長しないようにすることです。
もう一つは、一つの動きばかりを繰り返ししないということ。例えば、専門的のスポーツを小学生のことからやる必然性はないわけです。
体育の授業でもそうですが、一年を通じて色々なスポーツを経験するというカリキュラムになっています。体の動きを覚えたり、スポーツの競技のルールを覚えたり、その中で少しずつできる種目を増やしていくというのが授業のカリキュラムで組まれています。
これが少年野球や少年サッカーということになると、その競技そのものずっと繰り返しやることになります。面白いうというか、ある意味恐ろしいのは子供たちがやっているスポーツであっても、大人がやっているスポーツであっても、その競技が同じであれば動きは同じことをしていることになります。練習方法も同じです。
違いは使っているボールの重さだとか、実際に動いているボールの速さ、体の大きさや強さであって、実は同じことをやっている。同じことをやっている危険性というものを我々は理解をする必要があります。
子供の体は大人を同じではないということです。
どちらにも一長一短あるわけですが、こともの体は基本的には大人に比べて柔軟性がありますが、その分強さが無ないわけです。
そうしますと、強さが備わっていないのに繰り返し運動をある意味強要することによって結果的に体が耐え切れず筋肉ではなく骨にダメージがいって骨折や疲労骨折という問題が生じてしまう。これを避ける必要があります。
従いまして、時間を限定する。一つの種目ばかりをやらない。もし、野球やサッカーなど専門のクラブだったとしても、一日の運動時間の中に体を使った遊びを入れていくなど、他のことを組み合わせていきながら同じ繰り返しの動作をできるだけ少なくすることが最も簡単にできる予防方法になると思われます。
質問(2)
1・2年生ですぐ転ぶ、走っている姿を見ると体の左右のバランスが悪い感じの子がいる。対策を知りたい。
大人でもそうなんですが、元々我々の体は長さと重さがあります。いわば物体を二本の足で支えて、しかも走ったり、跳んだり、方向を変えたりとか、いろいろなことをやるのがスポーツですが、当然不安定なのが当たり前なんですね。
一流選手がバランスが取れた動きで非常に俊敏に動くことができるというのは、当然繰り返しやってきて感覚を覚えている、それから大きな体、重たい体を敏速に動かすことができるような筋力、柔軟性、パワー、こういった体力要素のレベルが高いからなんですね。
同じことをやらせたとしても小学生とかでは比率的にいっても脚に対して頭の方が重たい、頭部の方が重たい状態か小学生低学年くらいですのでアンバランスであることが普通なのです。
ですから、指導者に重要なのは出来ている子ばかりを見るのではなく、出来ていないのが普通なんだというところをまず理解しておかないと、「あの子は出来ているのに、あなたは出来ていないよね」ということでネガティブな言葉をかけてしまったりする危険性もでてきますので、そこは非常に注意が必要です。
まずは、小学校1・2年生の場合は左右のバランスが悪いのは普通だと言うことです。その中でも子供たちが楽しんでスポーツをするためには、できないことは少しずつでもできるようにして上げた方がいいので、そうなった時に非常に安全に確実に能力を変えることができる運動方法の一つが体幹トレーニングです。
体幹トレーニングのメリットは、まず手抜きができないことです。止まった状態で行うわけですが、例えば床の上で腕立ての形をする、あるいは立位の状態で片足で立つ、どのような形でも構いませんが固定(キープ・保持)することに特徴があります。
動きが無いけれども実際には体を固定するために筋力を発揮している。その状態の中で手抜きをすると体が“ぐにゃっ”と姿勢が崩れてしまったり、バランスを崩したりするので、「そうならないようにしなさいね」とメッセージを伝えるだけで意識もまた変わります。その中で少しずつできる時間が長くなっていったり、実際にそれに応じて筋力も付いてきます。
アンバランスな身体バランスの時には、このような動かないトレーニングが非常に有効になります。
こういった事を小学校低学年の頃から少しずつ重ねてやっていけば、例えば運動会や体育祭の時の人間ピラミッドを作って骨折をしたといった問題がありましたが、そういったリスクも下げることができます。
こういったことを指導者が子供の体の特性、発達段階の特徴と言うものを理解して運動の指導に当たれるようにすることが非常に重要になってきます。
質問(3)
方向感覚や距離感がうまくつかめない子がいる。どうすればよいか知りたい。
これは特にボールを使った競技ですね。
例えば、野球でフライが上がった時に手を上げて捕りに行こうとしたら頭上を抜けて後ろに行ってしまったといったケースです。
このように空間が把握できないような場合、単純に運動神経がいいとか悪いとかの問題ではなく目に問題があるケースがあります。
空間を認識するための能力でいうと、目の機能が非常に重要になってきますので、もし方向感覚や距離感がうまくつかめていないような子がいた場合には眼科に行って専門の検査を受けると言うことも一つ重要になってきます。
指導者がそのような知識を持っていれば別ですが、知らないことは教えることができませんし、知らないのに「何でできないんだ」ということで厳しい言葉をかけたりすると子供たちの心は閉ざされていってしまいますので、そういうことが無いように専門家に任せることも必要になってきます。
また、空間把握能力というのは三次元の中での話になりますので立体的に考えなければいけないわけですが、じゃあその子が運動ができないのか言うとそうではなくポジションを変えることで対応できたりします。
例えば、フライが上がったりするような目線を上に上げて空間の中でボールや人の位置を理解しなければいけないような競技をやっている場合は別ですが、前方からしかボールがこないような二次元の世界に近いような状態であれば体で受け止めることが可能になってきます。
したがって、競技種目を変えたり、ポジションを変えることで対応できることもありますので、子供の芽を摘まないためには指導者がいろいろな可能性を探っていきながら、その子に合ったスポーツやポジションを紹介してあげることも重要になってきます。
質問(4)
かかとやアキレス腱を痛がる子がいる。どうすればよいか知りたい。
下図は下腿の裏を解剖図で示したものです。かかとやアキレス腱が痛むと言うことなので、図で示した箇所になります。
まず、かかととアキレス腱は組織が違います。かかとは骨です。アキレス腱は腱なのでこちらは多少柔軟性がある特徴があります。このようにまったく異質なものなのであります。
なぜこのようなところが痛くなるのかということですが、よく成長期の子供たちに言われるのが成長痛と言うのがあります。
成長痛というのは、骨が長軸方向に成長していっている時に筋肉の伸びとかがうまく追い付いていないと過剰に引っ張られて付着部分が痛くなってしまうということで炎症反応が起きると言うのが一般的に理解されていことになります。
その場合、筋肉を緩めるストレッチをやって上げるとか、あるいはマッサージでほぐすということは一時的な対策としては非常に有効なので、ぜひ実践していただきたいと思います。
それ以外の部分に関しては、体の使い方を間違えている、もしくは負荷が大きすぎる、こういった事を考えていかなければいけません。
体の使い方を間違えていると言うのは、例えば走ったり、歩いたりするときに踵の着地を強要したりしていないかと言うことです。
よくウォーキングとかでは踵から歩くようにと教えられると思いますが、これはまったく根拠がありません。道を歩いている人見たらみんな踵から歩いているじゃないかぐらいの話でしかないわけで実際自然界の中で踵を着いて歩く動物はいないわけです。
靴を履いて二足で立っている人間だからこそ、踵が発達して安定した平面を確保しないと立てないわけで、それで踵ができたわけですが、この踵をいちいちガツガツぶつけていたのでは当然骨が十分強くなっていない子供たちにとっては痛みが出てもそれは当たり前のことなんですね。
走る時には、当然のことながらフォアフット、つま先部分から接地していかなければいけないわけですが、それがちゃんとできているのかということを見極める必要があります。
それからアキレス腱を痛がる場合、例えば小学校の低学年ぐらいから既にバスケットボールやバレーボールをやって跳躍を強要されるような競技の習慣が身に付いてしまっているような場合は体がそれに適応するのに時間的に早すぎて、それでオーバーワークから痛みを抱えてしまうケースはよくあることです。
従いまして、予防としては筋肉のストレッチを年齢に関わらず運動の習慣を身に付ける段階で少しずつ実践していくことです。
それから間違った動きをしないようにする。特に歩いたり、走ったりするときに踵から着かないことです。
また、軟部組織に過剰な負担をかけないようにするためには運動の頻度をコントロールしたり、反復する回数を減らしたり、運動の時間を少し短縮したりすることで、物理的に対応していくのが理想であります。
質問(5)
野球をしている小学6年生の息子が4月に腰を疲労骨折した。この成長期の子供たちにはどのようなことに注意して運動指導したら良いか知りたい。
疲労骨折がどうして起きるのかと言うと、針金を曲げたり伸ばしたりすると、曲げ伸ばしをしている部分がだんだん熱を持ってプチっと切れてしまいます。この金属疲労と全く同じ理由です。
子供の体でバットを遠心力を使いながら振っていく、しかも振る動作はゆっくり振ってもトレーニングにならないので、動作を教えられていなくても、できるだけ早く振ることを意識してやりますし、指導者が付いた場合にはもっと鋭く振りなさいとか、脇を締めてとか、いろいろなアドバイスをして速い球がきた時にちゃんとミートできるようにスイングができるかというところが練習の中でのポイントになってくわけです。
バットがどこまで動くのかということを考えたら、構えたところから振り出していって、遠心力が働いていますし、慣性が働きますので、振ったあとには体はひねられてしまうわけですね。
子供たちは筋力がありませんし、動きを止める筋力の発達というのは中学生レベルにならないと発達してきませんので、小学生の段階ではなかなかバットを止めるということができません。
したがって、多くの子供たちはバット振ったあとに手を離してしまいます。そうすると指導者は手を離してはいけないということを教えたりするわけですね。
大人と同じようにバットを強く振ったらまた元に戻してと繰り返し、繰り返し振らせようとします。そうすると止められないのにバットの手を離さないわけですから体は大きくねじられていってしまいます。ねじ切るというのが腰部にかかってきます。そのことによって疲労骨折が起きることになります。
野球の世界で素振りをするというのは当たり前の運動になっています。トレーニング方法として誰でも、プロの選手でもやっているような非常にポピュラーな運動方法ではあるんですが、子供には合わないということを理解した方がいいです。
ボールをミートするということでいえば、抵抗が発生するわけなので、それほど問題になりませんが、繰り返し、繰り返し、短時間の中でバットスイングを繰り返す。しかも、逃げるポイントを作らないとなると疲労が腰の部分にかかってきます。当然骨折は避けられないということになってきます。
そして、恐ろしいことにそのような状態になるのは、別に弱い子がなるということではないんですね。実は鋭いバットスイングができるような能力が高い子にも非常に多く疲労骨折が見られます。なぜかと言うと、振る力を持っているからです。
振る力は持っているんだけども止める力は備わっていない。ここに問題が発生します。
体力がなくて上手に振れない子と言うのは、一回一回の軌道も安定していませんから同じ場所に負担がかからないわけです。言葉は悪いですが、下手な子の場合には、まだそんなにトラブルは起きないわけです。
ところが上手な子で再現性の高いスイングフォームができているような子の場合で、さらに上乗せしてトレーニングとしての追加の素振りをやっていくようになると途端に骨折の可能性が増していきますので、ここは注意をして下さい。
能力が低いとか、体が弱いと言うことではなく、実は能力が高くてバットを振る力を持っているから起きてしまう問題であると言うことです。
これはサッカーなどの場合でも起きます。サッカーだとシュートがすごく得意な子。あの子に任せていたらゴールを決めてくれるからと言うことで、出番が数人の子に偏っていってしまいます。
そうするとその子たちは一生懸命ボールを蹴って繰り返し、繰り返し、チームのために、そして自分のために頑張ろうとするわけですが、子供の体は先ほど言いましたように動き出すことは出来ても急ブレーキをかけることはなかなかできないわけです。だから大きな力が発揮されたときに受け止める体が出来上がっていないので腰に過剰な負担がかかって怪我が増えてしまうんだと言うことです。
従いまして、質問の答えとしては、運動量を制限する、頻度を減らす、時間を減らす、偏った運動をしない。こういうことが有効な対策となってきますので、ぜひ指導者、そして保護者の方々は理解してほしいと思います。
筋トレTV 出演・動画監修
森部昌広 先生
九州共立大学 経済学部准教授・経済経営学科スポーツビジネスコース主任・サッカー部部長、一般社団法人全日本コンディショニングコーチ協会代表理事、一般社団法人日本メンタルトレーナー協会理事、九州大学非常勤講師(健康・スポーツ科学)、財団法人福岡県スポーツ振興公社スポーツアドバイザー、株式会社GET専務取締役、アイ・エム・ビー株式会社取締役、森部塾塾長