産後の体の変化をどのように改善すればいいのか、その筋トレメニューと、その方法・効果について解説します。正確かつ効率的にトレーニングすることで時間の節約と同時に最大の効果を引き出すことができます。筋トレを通じて産後の体をリセット&向上させていきましょう。
産後における効果的な筋トレメニューとは
女性が妊娠して、そして出産、育児の段階に入って、そこから少しずつ産後太りとかを気にされて何かやらないといけないんじゃないかと言うことで、例えば自分でできるところから始めてウォーキングをしてみたりとか、あるいはヨガのようなプログラムに取り組んでみたりというような方々の中に筋トレのやり方が分かれば少し取り入れようかなとチャレンジされるような方もいらっしゃいます。
重要になってくるのが、産後がかなり特殊な体の状態にあるということを理解する必要があります。
一番大きく変わっているのは、何しろ十月十日、子宮の中で胎児を育てているわけです。そのため、お腹が大きくなった状態は物理的に背骨よりも前に大きなものがあるわけですから、骨盤が前に前傾して腰が反ったような状態で妊娠中はかなり腰が辛かったような方もいらっしゃると思います。
このお腹が大きくなっている時には、どのような状態になっているかと言いますと、腹筋が伸びてしまっているわけですね。腹筋が伸びてしまわない事には、赤ちゃんをその中に入れておくことができませんので、どうしてもお腹が大きくなってしまいます。
しかも、そのときに腹筋を抑えている靭帯も一緒に伸びてしまっていますので、出産後は赤ちゃんを体外に出したことによって体は軽くすっきりはしますが、緩んだ状態で自分の体を立たせなければいけないという特殊な状況にあります。
しかも、出産後骨盤が開いてしまっています。そのような力が入りにくいような状況で運動プログラムを開始するわけですからかなり注意が必要になってきます。
ここで結婚前、妊娠前くらいの体が細くしなやかだった状態にいち早く戻していこうとすると、どうしても体が無理をしてしまうことになりますので、こういったことは厳に慎まなければいけません。
ところが、一方では芸能人の方などが出産し、比較的短い期間で現場に復帰するような状況になったとき、本当に妊娠していたんですかと言うくらい体も作り上げてカメラの前に立たれたりしています。
このような場面を見ると何か秘訣があるのではないかと興味をそそられるというのも無理からぬことだと思います。
どのような方もやはり少しでも早い段階で体力があって、キビキビ動けていたときに戻った方がいいに決まっています。
ただでさえ出産すると赤ちゃんが身近にいて手がかかるわけです。そのために体がなかなかうまくコントロールできないというのは、毎日の生活を普通に送るだけでも結構大変になってきますので力を取り戻すことができれば、それは自分の体のことだけでなく育児の面においてもかなりプラスになってくるでしょう。
まずは体幹部を固定して安全性を確保する
では、それを可能にするためにはどのような方法があるのかということですが、
まず理解しなければいけないのは、失った筋力をすぐに取り戻すことはできないという生理的な限界があるということです。
無理をするとその反動は自分に跳ね返ってきます。筋肉も弱くなっています、靭帯も伸びています。関節もかなり負担がかかっているような状態の中でそこにトレーニング強度が上乗せされると体が持ちません。これは絶対にやってはいけません。
では、筋力が落ちている中で運動する場合のリスクを少しでも低減するためにどうすればいいのか。失った筋力の代わりになるものを活用するということです。そのために活用できるものがウエイトリフティングのベルトです。
ウエイトリフティングのベルトは、最近は革製の硬いものではなくナイロンで作られた比較的皮膚に密着しても痛くないもの発売されていますので、それを活用いただければと思います。
そういったベルトを購入したりすることができないとか、他のもので代用できないのかと言う方に関しては、さらしを巻く、あるいは着物の帯みたいなのを巻くことをおすすめします。
そのことによって腹筋が弱くなって緩くなった体幹部を固定することができますので、背骨の安定感と家にも繋がってきますから、比較的安全に運動することが可能になります。また、骨盤を包むような形でベルトを巻くことによって広がってしまった骨盤を速い段階でサイズを小さくすることも可能になってきます。
もちろん、あまり強く圧迫してしまいますと、むくみの原因になったり、内出血の原因になりますので、これは加減をしながら少しずつ慣らしていく必要がありますが、骨盤のサイズが元のサイズに近づくことによって上に乗っている胴体を細く引き締まっていきやすくなります。
ということで、運動をする上での土台作りということで考えれば、腰ベルト、もしくはウエスト部分を補強するもの、これを活用していただくことをまずはおすすめします。
ポイントは下半身の強化
その上で、どのような筋トレメニューがいいのかということですが、母乳を与えるようなときだとか、あるいは赤ちゃんをあやしたりするときは常に抱えているわけなので、上肢に関しては比較的自然とトレーニングされている状況になります。
ずっと赤ちゃんを抱き続けるというのは本当に筋力を必要とします。男性でも、2~3キロ程度の赤ちゃんを抱っこしているだけでも上腕二頭筋が悲鳴を上げるくらいパンパンになってきます。これを毎日やっているわけですから上肢の筋力に関しては、かなり強い状況にある事は間違いないと思います。
しかし、ウエストから下の部分に関しては、完全に弱ってしまっていますので、その状態でウォーキングやジョギングなどのようなものを追加しようと思うと膝関節などに負担がかかってしまう可能性があります。
膝や股関節を痛めてしまうと、常時体重を支えなければいけない所なので、痛みのあまり日常生活が苦になってしまいますから、これは絶対にやってはいけません。
スクワット
では、どのようなトレーニングがいいのかといいますと、これに関しては膝関節に特別障害が出ているとか痛みがないのであれば一番簡単にできるのはスクワットという運動になります。
スクワットも間違ってやってしまうと膝を痛めてしまうことになりますので、誰がやっても簡単にできる方法を紹介したいと思います。
椅子に座って立つ、座って立つを繰り返すだけです。つまり、椅子に腰かけていく範囲の中だけで運動をする方法になります。
注意点としては、少しでも座りこんでしまうと、その瞬間に筋力が脱力し、脱力したところから切り替えるときに関節に負担がかかってしまいます。そのため、立った状態からお尻を下ろしていくけれども、椅子の座面につくかつかないくらいからまた立ち上がるようにします。これを繰り返します。
このような椅子を利用したスクワットをやっていただければと思います。
家の中に丁度いい椅子がないような場合には壁を使うことをオススメします。
壁を背にして、壁の前に立ちます。その状態からお尻を壁に付けるような感じで腰をかがめて、お尻が壁に当たったところからまた立ち上がります。
当然のことながら背中側に壁があってその前に立つわけですから、立つ位置が壁から近い位置だとちょっと膝を曲げれば簡単にお尻が付きます。そうなると膝がほとんど曲がっていない状態になるのでこれはかなり安全性が高くなります。
安全性が高いところで慣れてきたら、立つ位置を少しずつ壁から離していくわけですね。
そして、最終的に膝関節がちょうど90度になるところに位置を設定すれば効果的に運動を進めることができます。
もちろん、お尻を壁に付けるときには上半身は前傾した形になっています。体を前に倒すことによって膝を前に出さないことができるわけなんですね。そして、同時にお尻を壁に近づけることができます。これによって膝関節を守っています。
トレーニングで筋トレの効果を出したいけれども、やり方を間違えて膝関節を痛めてしまうのでは全く意味がありませんので、ぜひこういったところを理解していただいた上で、椅子を使って座るか座らないくらいのギリギリのスクワット、もしくは壁の前に立って行うスクワットを行うことをおすすめします。
スクワットは両足で行いますので、左右同時に使うことができますから、相当筋力が弱っていても太ももに比較的刺激を与えながら、なおかつ安全にトレーニングすることが可能になります。
まずはこのスクワットから始めて、その中で回数を少しずつ増やしていきます。急に増やす必要はありません。赤ちゃんの成長に合わせるくらいにのんびりした感じで大丈夫です。
10回から始めて15回、20回、30回というように少しずつ増やしていき、連続して30回できるようになってきたら次は30回を2セット行う、3セット行うというように少しずつ筋トレのボリュームを増やしていきます。
最初はこれだけで結構です。
カーフレイズを追加する
次に1セットやった後にインターベルを取ってしまうともったいないですので、スクワットが1セット終わったら、そのあとにカーフレイズというつま先立ちをして上げ下ろしする筋トレを追加します。
まずはスクワット、次にカーフレイズ、そしてまたスクワット、カーフレイズという流れでトレーニングします。
そうすると休まずに連続して運動することが可能となってきます。これは非常に効果が高いトレーニング法です。
特に女性の場合は、男性に比べて筋肉の量が少ない、毛細血管が細い、体脂肪が多い、まして出産後です。脚は凄くむくみやすくなっています。このむくみやすい状態が耐え難いわけなんですね。
これを改善するためにはスクワットで太ももやお尻の筋肉を刺激して、カーフレイズでふくらはぎの筋肉を刺激する。そのことによって下半身、下肢の血液循環量を強制的に引き起こすわけなんです。
そうすることによって筋トレの効果を出すことができます。その効果というものは、筋力を強くすること、それから下半身の引き締めを行うということ2つのメリットがあります。
これは非常に有効ですので、さっそく今からでも始めていただければと思います。
種目を追加してさらに効果を高める
トレーニングには大きな原理がいくつもあります。その中で重要なものが過負荷の原理というものです。
過負荷の原理は、分かりやすく言えば日常生活で感じるよりもほんのちょっとだけきついことをやりましょうという感じの解釈です。
筋肉が普段は実感していないレベルでの少しきついこと、これをすることによって体はもっと強くならなければならないという必要性を感じて自分の体を発達させようとします。体を発達させるというのは筋力を高めるということ、それから筋肉を肥大させるということで体が適応して能力を高めていくわけです。
スクワットを30回3セット、約100回もできるようになってくると相当強くなっています。そうするとそれ以上スクワットをやっても効果は高止まりしてしまいます。
時間がたくさんあってセット数を増やしていける方にとってはそれでも十分なんですが、それをやっている間に赤ちゃんが起きてくるかもしれない、家事もやらないといけない、まとまった時間がなかなか取れないというような場合は、セット数をどんどん追加することでトレーニング効果を高めていく方法は現実的ではありません。
それを解決する方法としては、両脚でやっていたスクワットを片脚ずつやるという方法があります。
脚を前後に開いて、うしろ脚は真っ直ぐに伸ばしたまま、前脚の膝だけを曲げ伸ばしをするという方法になります。これをスプリットスクワットと言います。
ポイントとしては、脚を前後に大きく広げることです。大きく広げてうしろ脚の膝は真っ直ぐに伸ばしてかかとは床から浮いた状態を作ります。つまり、うしろ脚はつま先しかついていない状態を作ります。
その時に上半身は、うしろ脚の延長線上なるように前に倒します(かかとから頭までが一直線になるイメージ)。一直線にすることによって体はカタカナの“イ”の字を書いたような状態になります。その状態で前脚の膝だけを曲げ伸ばしていていきます。
深く曲げる必要はありません。最大に曲げても膝関節が90度になるところまでで結構です。
ただし、片脚で行いますので膝には大きな負担がかかりますから、できるだけゆっくりと正確に行うようにして下さい。
そして、右脚左脚を同じ回数できる最低の回数を設定します。つまり、左右どちらか弱い方に回数を合わせるわけです。
右脚と左脚でどちらが強いかということに関しては、最初に試してみれば確認できます。左右ともに10回行ったときにどちらの方が楽に感じるかということを判断して下さい。
そして、楽に感じる方が強いわけですから、強い方を弱い方に合わせて回数を設定します。
もし、右脚の方が強くて左脚の方が弱いとします。左脚の場合だと7、8回反復するとフラフラしているという状態であれば、まずは7、8回から始めて下さい。
その場合は、右脚が余力を残るとしても同じ回数行うようにします。
確実に7回、もしくは8回が正確なフォームで完全にできるようになってきたら9回、10回というように少しずつ反復回数を増やしていきます。
その回数が10回を越えて、15回、20回、30回と伸びていった場合には、運動の強度としてかなり楽になってきています。つまり、筋力がそれだけ強くなってきているということですので、その段階で2セット、3セットとセット数を増やしていきます。
スプリットスクワットで脚を前後に割って行うことによって、前脚の太もも、それから前に踏み出した側のお尻の筋肉が強い刺激を受けます。
そのことによってヒップアップ、太ももの引き締め、こういったところに目に見えた効果が現れてきます。
裸足で行う
それから言い忘れていましたが、室内で行いますから必ず裸足でやってください。靴下も履いてはいけません。
裸足でやることのメリットは、足の指が自由に使えるということです。
最初からうまく動かせるのは難しいですが、特にスプリットスクワットのように脚を前後に開くと左右方向へのバランス感覚が一時的に極端に失われてしまいます。そのことにとよってバランスを取るために足の指が必死で踏ん張ってどうにかバランスが崩れないように頑張ることになります。
このことによって足の指が運動に参加してきます。体の一番末端は足の指ですから、足の指が運動に参加することによって血液の流れが非常に良くなるメリットもあります。
下半身の血液の流れがよくなると、むくみが解消されます。もしくは解消されるのが早くなってきます。そのことによって出産後にありがちな下半身のむくみ、冷え性、疲れ、こういったものが一気に解消されていきます。
まず、最初の1ヶ月~2ヶ月くらいまではスクワット、カーフレイズ、そしてスプリットスクワット、この3種目をしっかりとやりこんでまずは下半身づくりというところから取り組んで下さい。
その際に頑張り過ぎて腰を痛めたりすることが無いように最初にお話ししたようにベルトやさらしなどで体幹を固定して補強しておくようにします。
こういったところから始めていただければ、かなり安全に筋トレをやることができます。
焦る必要はありませんので、できるところから段階を追ってトレーニングを進めていきましょう。
筋トレTV 出演・動画監修
森部昌広 先生
九州共立大学 経済学部准教授・経済経営学科スポーツビジネスコース主任・サッカー部部長、一般社団法人全日本コンディショニングコーチ協会代表理事、一般社団法人日本メンタルトレーナー協会理事、九州大学非常勤講師(健康・スポーツ科学)、財団法人福岡県スポーツ振興公社スポーツアドバイザー、株式会社GET専務取締役、アイ・エム・ビー株式会社取締役、森部塾塾長