ご飯(白米)をたくさん食べるだけで体づくりはできるのだろうか?野球部を事例に栄養の正しい摂り方や知識についてお話ししたいと思います。成長期における栄養摂取は将来を占う大切な取り組みです。正しく食事を摂り、適切な体づくりを行っていきましょう。
何を食べて、どう食べればいいのか
野球部では昼ごはん時、3Lタッパーにご飯を入れ食べることがルールだった。体を大きくするためだと言われていたが、実際に私の身長は164cmである。特に伸びておらず、体重が増えるだけであった。(野球)
これは野球経験がある専門学校の学生が書いてくれました。
私(森部先生)の講義の中でスポーツ栄養について説明をしたことがあったのですが、そこの中で体づくりに必要な栄養はどのようなものなのか、どんな食事の仕方をしなければいけないのかということを授業しました。それを聞いての感想になります。野球の世界ではこういったことは多くの方が経験していると思います。
選手人口の多さから野球関係のところから講演のオファーを頂くことが多くあります。その中で必ず出る問題として体を大きくしたいけれどもどんなふうに食事をしたらいいのかと言う質問が良く出されます。
これは保護者からも出ますし、子供たち自身からも出ますが、その中にふざけて言っているのかと思うくらいビックリすることも少なくありません。それが3Lタッパーにご飯を入れるといったものです。
ご飯というのは食事と言うことではなく白米を意味しています。要は白ご飯をそれだけ入れてバクバク食べるということを指導しているということです。
食べたものをいかに消化・吸収させるか
ある非常に有名な野球の監督さん、中学校の先生だったんですが福岡では指導力のある先生だと伺ったことがありますが。その先生から「子供たちの体を大きくするために、うちではどんぶり飯を3杯食べるようにしていると」聞かされました。
その先生から「このことについて森部先生はどう思われますか」と質問をされたことがありました。
それで私(森部先生)は全く意味がありませんと説明しました。
なぜなら、身体を作るための栄養素はタンパク質ですが、お米の中にタンパク質が入ってないわけではありませんが、非常にアミノ酸スコアが低い状態なので、それだけ摂ったところで筋肉の合成はほとんど起きないわけです。
たくさん食べさせることは、子供たちの体に何をもたらしているのかと言うと、単に内臓を疲れさせているだけだという現象を引き起こしています。
内臓が疲れると何が起きるのかと言うと、肝心の野球の練習の時に力が入らないわけです。もしくは、歯を食いしばって頑張ったところですぐにバテてしまいます。そのわりに体に筋肉が付かないといったことが起きますのであべこべになってしまうのです。
このように説明をしたら、その先生には考え方があって、子供たちの体を大きくするために食事そのものの量を増やさないといけないが、体の小さい子たちと言うのはあまり量を食べれない子がいるので、まずはご飯をたくさん入れて胃袋を大きくして、そして食事を摂る量を増やしてあげようと考えていると答えられました。
筋肉は伸び縮みをしますが、胃袋も当然筋肉です。ですから、中にモノが入っているときは膨らみ、空っぽの状態だったらしぼむことになります。
だから、胃袋を大きくしたところで、そのあとで食べても胃袋が小さくなっているときに食べればまた同じことになりますので、結局は食べれない人は食べれないわけです。
大事なことはたくさん食べさせるということではなく、食べたものをいかに消化・吸収させて身にするかと言うことが大事なわけです。
そのために運動、そして栄養、そして休養、この3つのバランスが必要となり、これをコンディショニングの3要素と呼んでいます。
一口100回噛む
上記の感想を書いてくれた学生は、身長164cm、年齢が18歳でした。どちらかというと小柄な方だと思います。それなのに体重だけが増えてきたということです。
体を大きくするためには、発育発達段階というのがだいたい小学校の高学年から高校生の半ばくらいまではどなたでも成長期真っ只中ということになりますので、この段階でいかにタンパク質をたくさん摂取できるかということが成長期の縦に伸びるということに関しては非常に大きな要素であります。
従って、この時期に食べさせなければいけないのは、3Lタッパーに詰め込んだご飯ではなく、適切にタンパク質を摂らせるということであり、いかに消化吸収を促進できるような時間を確保するのか、そしてどのようにして食べさせるのかと言うことに関して以前にも説明した通りよく噛んで食べることです。
特に一口100回を目標に十分に口の中で咀嚼をして、そして胃や腸にかける負担を少なくする。こういった食べ方を徹底して行うことが、はるかに重要であるということを理解していただきたいと思います。
短期間で真の体づくりはできない
自分が部活をやっていた頃、いつもは決まりと言うものはないが、合宿の時に「ごはんを3杯は食べなければいけない」というのがあって、食事をしていて吐く人もいた。その後、全然動けなくなるので意味がないと思っていた。(野球)
これも野球をやって子ですが、先ほどと同じような感想をもらいました。
合宿といえば野球が強くなるための強化合宿だと当然思うのですが、実は食事合宿とか別名がついているらしいです。
この合宿期間中にとにかく家では食べないくらいたくさん食べさせて、そして体を大きくしようというような企画らしいですが、これは指導者の完全なる間違いであるということをここで強く説明させていただきます。
まず、合宿で短期間のうちにいきなり体が大きくなるなんてことはありません。
人の骨格が成長するとか、筋肉が成長するということに関しては細胞のターンオーバーと言うものが起きないといけないわけです。組織によって違いますが、それは数十日~数ヶ月かかってしまいます。ですから、家に戻ったら、それまでの平常時の食事に戻るわけなので、合宿の時にいくら食べたからといってほとんど意味がないわけなのです。
先ほども言いましたが、ご飯の中にはたんぱく質がほとんど入っていません。アミノ酸スコアで言うと60数点くらいです。学校のテストで言えばギリギリ合格点といったところです。これでは、一向に強くならないわけです。
野球の世界で甲子園を狙うとか、大学に進学する、あるいは実業団、プロ野球選手を目指すといった夢を持っている子供たちにとっては体というものは資産になりますので、いかにちゃんとした体づくりをするのかということを教えてあげることが指導者にとっての責務ではないかと思います。
成長に必要な3要素を意識する
では、どのようにすれば子供たちの体が正常に大きく成長するのかというと、まず一日は24時間しかないということをしっかりと理解して下さい。
この24時間の中で成長に必要な1.運動の刺激を与えること、それからその刺激を受けたあとに起こりうるタンパク同化作用というものが限られた時間しか起きませんので、そこを逃さずに十分に血液の中にタンパク質を消化した状態、つまり2.アミノ酸にした状態で筋肉の中にたくさん栄養を入れてあげること。そして、十分に筋肉が養われる間、3.睡眠を確保する、この3点が必要になってきます。
そうするとたくさん練習をやる、たくさんトレーニングをするということで運動の時間が長すぎた場合、2つの悪影響が出ます。それは運動の刺激が強すぎてまったく意味を無くしてしまうということです。
これは全か無かの法則と言って運動は適切な刺激があれば非常に効果を出しますが、やり過ぎた場合、あるいはまったく何もしなかった場合は刺激がゼロと受け止められて体の反応が起きないということが生理的に分かっています。
そのため、運動の時間、運動の強度をしっかりとコントロールしてあげる必要があります。これは当然個人差が出てきます。学年によっても変わってくるでしょう。この点について指導者は理解する必要があります。
その上で刺激を受けた体に適切に栄養を与えなければいけないわけですが、その栄養は決してトータルカロリー(総カロリー)の問題であるとか、あるいはご飯(白米)をたくさん食べるということではなく、アミノ酸スコアの高いもの、タンパク質組成のバランスの取れたものを体重1kgあたりに適切な量摂るということが必要になります。
当然、体が小さい子と大きな子とでは個人差が出てきますし、筋肉が大きな子と少ない子とでは当然変わってきます。ですから、(一律に決めず)個人を見てあげる必要が出てくるわけです。
腹いっぱい食べるということではなく、十分に必要な量が確保されているのか、その質はどうなのか、質も量もどちらもコントロールしてあげる必要があります。もし、そのことが分からないのであれば、やみくもに腹いっぱい食えと言うべきではありません。
中にはただ腹いっぱい食べているだけで大きくなる子もいます。それは、その子の個人的な能力、あるいは特性と考えて、そうなっていない子たちにどうするかということを考えてあげて下さい。これは指導者の責任だと思います。
その上で睡眠時間に対して悪影響を及ぼさないような指導を考えるということ。例えば、運動時間を異常に長くすることによって結果的に睡眠時間が削減されてしまうような物理的な問題があります。
あるいは安眠をするために必要な心の状態を損なうような、例えば、厳しい言葉をかけ本人が苦手意識を持ったり、嫌だなと言うようなネガティブな感情を引き起こすような指導をしない。こういった事が非常に重要になってきます。
明日のことを考えて、一週間後のことを考えて、一カ月のことを考えて、試合で成果を出すことを考えて、その子の将来のことを考えた上でどのような言葉かけをして、どのような練習計画やトレーニング計画を組んで栄養指導を行っていくのか。
本来、こういったものがすべて課外活動の中に入ってくるものなのです。そのような段階にあるわけです。
発育発達段階と言うのは、非常に責任が重たいので自分の知らないことについては、知らないということをはっきりと言うことも指導者にとっては重要であると思います。
ぜひ、こうしたことをしっかりと受け止めて指導を改善していただければと思います。
子供たちの体、心、技術と言うものは、適切な指導をすることによって驚くほど変わりますので、そうした可能性に期待をしていただいて正しい指導方法を求めていただければと思います。
筋トレTV 出演・動画監修
森部昌広 先生
九州共立大学 経済学部准教授・経済経営学科スポーツビジネスコース主任・サッカー部部長、一般社団法人全日本コンディショニングコーチ協会代表理事、一般社団法人日本メンタルトレーナー協会理事、九州大学非常勤講師(健康・スポーツ科学)、財団法人福岡県スポーツ振興公社スポーツアドバイザー、株式会社GET専務取締役、アイ・エム・ビー株式会社取締役、森部塾塾長