スタティックストレッチ(静的ストレッチ)は、筋トレやスポーツにおける怪我の予防やパフォーマンスアップだけでなく、健康や精神面でもいろいろな効果があります。ここでは動画の内容に加えて、方法や筋トレ効果、一般的効果、実施タイミングなどを詳しく解説していきます。
目次
- スタティックストレッチ(静的ストレッチ)とは?
- スタティックストレッチの方法
- 筋トレ前と筋トレ後のスタティックストレッチ
- スタティックストレッチの効果
- スタティックストレッチの一般的な実施タイミング
- おわりに
スタティックストレッチ(静的ストレッチ)とは?
ストレッチは、関節可動域を改善する代表的な方法です。
その中でもスタティックストレッチは、もっともポピュラーなストレッチで、多くの人が何度となく行ったことのあるストレッチではないかと思います。
ゆっくり伸ばして、一定の時間静止する。
単純ですが、たったこれだけで体にいろいろな効果を得ることができます。(効果については、下記参照)
しかし、単純だからこそポイントをしっかり押さえて、正しい方法で実施することが大切になります。
スタティックストレッチの代表的なものとしては、”前屈”が挙げられます。
あなたも体育の授業や部活などで行ったことがあるのではないでしょうか。
立った姿勢から、膝を伸ばしたまま腰を曲げていくやつですね。
主に太ももの裏(ハムストリングス)、そして下背部の筋肉が伸ばされます。
なお、柔軟性の測定でも前屈を行ったことがあると思いますが、この場合は伸ばす時間が短いことと痛いのを我慢して伸ばせることろまでフルに伸ばすので、スタティックストレッチとは言えません。あくまで、柔軟性の測定方法のひとつとして前屈を利用しています。
スタティックストレッチは、イタ気持ちいいところまで伸ばしたところで20~30秒間静止するのが基本になります。
痛いのを我慢することはしません。
伸ばせるところまで伸ばしたら、わずかに緩めるくらいのポジションで静止するのが、ちょうどいいくらいです。
スタティックストレッチのポイントの一つに「伸張反射」を抑えることが挙げられます。
伸張反射は、筋肉が過度に伸ばされて損傷しないように(保護するために)、筋紡錘という感覚器官が反応して、筋収縮が自動的に起こる反射運動です。
伸張反射を起こさないようにするためには、筋紡錘を刺激しないようにゆっくりと伸ばしていく必要があります。
前屈の場合、床に手を付こうと反動を使って動作すると、一瞬は床に手が付いたり、普段より距離は出ますが、すぐに伸張反射が起こりバネのように戻されます。
反動を使って動作して、一番伸びた(曲げた)位置で静止することはできないと思います。
スタティックストレッチは、伸張反射を起こさないようにゆっくり伸ばすことが重要な動作のポイントになることを覚えておきましょう。
スタティックストレッチの方法
伸ばして静止するだけですが、ただ伸ばすだけでは効果的なやり方だとは言えません。
正しい方法を身に付けて効果的にストレッチしてみましょう。
まずは、上記で説明したように伸張反射が起きないようにゆっくりと伸ばしていくことです。
イタ気持ちいいところまで伸ばしたら、わずかに緩めて、その姿勢を保持します。
そして、伸ばしている筋肉を意識することです。
我流でなんとなくやっていると、伸ばしているつもりになっていることが少なくありません。
これでは、同じ時間を使ってストレッチしたとしても効果半減です。
伸ばす筋肉を意識するだけで、正しい姿勢も身に付きますので、伸ばしている筋肉を意識してみましょう。
静止しているときに筋肉の伸びを感じられればGOODです。
なお、伸ばしている筋肉を意識しにくかったり、伸びを感じにくい場合は、実施前にあえて伸ばす筋肉に力を加えると、意識しやすく、力も抜きやすくなります。
伸ばしたら20~30秒間静止します。
これらのポイントを押さえながら、1~3セット実施します。
下記でも説明しますが、筋トレ前は20秒×1セット、筋トレ後は30秒×1~3セット行うようにしてみましょう。
ストレッチ中の呼吸は、息を吐きながら伸ばしていき、静止したら自然に呼吸をします。
前屈の具体的方法
前屈を例に具体的方法を説明します。
前屈は、ハムストリングス(太もも裏)と下背部(腰周辺)をストレッチするので、これら(特に太もも裏)の筋肉を意識して動作します。
- 立った姿勢から膝を伸ばしたまま腰を曲げていきます。
- 息を吐きながら、ゆっくりとイタ気持ちいところまで曲げたら、わずかに緩めてその姿勢を所定の時間保持します。保持している間は、呼吸は自然に。
- 所定の時間保持したら、ゆっくりと元の姿勢に戻ります。
- これを目的に応じて、1~3セット実施します。
ちなみに、スタティックストレッチは現状の可動域を広げるために筋肉を伸ばしますので、手が付くかどうかは意識する必要はありません。
手が付かなくても、筋肉を意識して(この場合、太もも裏)伸びを感じられれば、それがあなたのベストポジションです。
ありがちな間違いに背中を丸めてしまうことがあります。
背中を丸めてしまうと、広背筋のストレッチがメインとなってなって、太ももの裏を十分に伸ばすことができません。
背中はできる限り真っ直ぐを保ち、腰を起点に曲げるようにして下さい。
動作するとき、手を伸ばして床に付けるイメージではなく、腰の角度を狭くしていくイメージで動作するとよいかと思います。
腰から動作し、その流れに沿って自然と手が付いてくるように動作してみて下さい。
以上、流れをつかむために前屈を例に解説しましたが、ストレッチには部位別はもちろん、同じ部位でもいろいろな方法があります。
その他のスタティックストレッチを動画で解説していますので、実施の際は参考にして下さい。
筋トレ前と筋トレ後のスタティックストレッチ
筋トレ前のウォームアップ(ウォーミングアップ)方法と効果およびクールダウンで解説した内容と重複する部分もありますが、おさらいとして簡単に解説したいと思います。
筋トレ前
筋トレ前は、可動域の拡大とともに痛みや違和感のある箇所はないか体の状態を確認するようにします。
ジョギングなどの有酸素運動を行い筋温・深部体温を上げたあとに20秒×1セット実施します。
なお、筋トレ前にもストレッチは必要?で解説したように、筋力パフォーマンスが低下すると言われているのは、30秒以上行うような入念なストレッチです。
筋トレ前は、トレーニングする部位を中心に20秒程度伸ばし、可動域の拡大と同時に痛みや違和感のある箇所はないかチェックするようにしましょう。
筋トレ後
筋トレ後は、筋温が高まっている筋トレ直後にクールダウンとして実施します。
ここでのスタティックストレッチは、酷使した筋肉の短縮や硬縮を防ぐと同時に疲労の回復を図ります。
血流を促して硬くなった筋肉を弛緩させ、元の状態(静止長)に戻すとともに、乳酸などの疲労物質を流します。
筋肉を使った部位を中心に一部位につき、30秒×1~3セットずつ行うようにしてみましょう。
スタティックストレッチの効果
スタティックストレッチで得られる効果は、関節可動域の拡大だけではありません。
関節可動域の拡大は、身体機能的な直接的効果であり基礎をなすものですが、その他にも伸ばす過程や筋肉を伸ばすこと自体を通じて、いろいろな効果を得ることができます。
筋トレの時だけでなく、日常にストレッチを取り入れることは心身の健康においても、とても有意義な習慣になることでしょう。
「筋トレ前にもストレッチは必要?種類と効果について」でも効果を取り上げましたが、ここではスタティックストレッチ特有の効果について、細分化し説明を加えたいと思います。
筋トレ・スポーツにおける効果
- 関節可動域アップ
関節可動域を適切に確保しておくことは筋トレやスポーツの実施において怪我の予防やパフォーマンスのアップにつながります。力士の柔軟性の高さは周知のことですが、これも怪我を予防し、自在に体を動かすことができるようにする必須要素です。
筋トレでは動作の過程を通じて正確かつ的確なフォームが確保され、効果アップにつながります。 - 老廃物の除去
血流を促すことで、乳酸などの疲労物質を流れやすくします。
伸ばしているときは、血流が制限された状態になりますが、緩めた時にポンプ作用により勢いよく血液が巡ります。 - 酸素と栄養の効率的な運搬
老廃物の除去と関連しますが、血流を促すことで、全身に酸素と栄養をスムーズに運ぶことができます。
筋トレ後のストレッチは、プロテインなどの栄養を効率的に運ぶことにつながります。 - 身体の違和感の発見
日常の動作では気づかない筋肉や関節の状態を確認することができます。日常ではあまり伸ばさないようなところまで筋肉を伸ばすことで、違和感や不調を発見しやすくなります。
違和感を発見した場合は、筋トレのメニューや強度を変更したり、休養を設けることで怪我を未然に防ぐことにつながります。あるいはマッサージや筋膜リリース、整体などで、その部分の改善を図ることで身体のケアを施すことができます。 - リラックス感向上
スタティックストレッチの実施中は心拍数が低下し、副交感神経が優位になっていきます。筋トレで高まった興奮状態からリラックス状態へ導き、精神面での回復を促すことができます。
一般的な効果
- 日常的に悩まされる肩こり、腰痛、冷え性などの不調解消・軽減(血流改善・老廃物の除去・柔軟性向上)
不調の原因は血液の滞りから起こることが少なくありません。
肩こりや腰痛などでは老廃物が蓄積して周辺組織が硬くなっている場合があります。
そのような場合、目的の部位や周辺をストレッチして、筋肉のこわばりをほぐすことで血流が改善され、不調の原因を取り除くことにつながります。
血液は熱を運ぶ作用もあることから、冷え性の改善にも効果的です。
関連リンク : 不調改善・緩和ストレッチ - 疲労の軽減(柔軟性向上・血流改善・老廃物の除去)
仕事や勉強など同じ姿勢をすることが多い場合や同じ動作を繰り返すような場合は、知らず知らずのうちに疲労が蓄積されていることがあります。
体の張りやだるさを感じている場合は、スタティックストレッチにより筋肉のこわばりをほぐすことで疲労の軽減に役立ちます。血流も促されるため、老廃物の除去にも効果的です。 - 安眠(副交感神経優位)
ストレッチにより副交感神経が優位になることから心拍数が低下し、気持ちが落ち着き安眠に効果的です。
関連リンク : 安眠ストレッチ - 気持ちがリラックスする(副交感神経優位)
副交感神経が優位になることで、気持ちを落ち着かせることができます。落ち着かない時、気が散って集中力が落ちているとき、スピーチ前に緊張しているときなどにストレッチが活用できます。 - 姿勢の改善(柔軟性向上)
姿勢の悪さは柔軟性の低さに起因していることが少なくありません。
例えば、太ももの裏の筋肉・ハムストリングスが硬くなっていると骨盤が後ろに引っ張られて背中が丸くなってしまいます。この場合、柔軟性を高めることで、骨盤をニュートラルに保てるようになり、姿勢の改善に役立ちます。 - むくみの改善(血流改善・老廃物の除去)
血流を促すことで、老廃物や水分を流すことができ、むくみの改善に効果的です。 - (特に高齢者)日常活動の改善(柔軟性向上)
人は加齢とともに柔軟性が低下していきます。
特に高齢者においては低下が著しく、日常の動作に制限が出る場合もあります。
特に下半身の柔軟性低下には注意する必要があり、脚を上げにくくなったり、歩幅が狭くなることから、転倒のリスクが増すことになります。
ストレッチを習慣にすることで日常活動の改善だけでなく、リスクの防止にも役立ちますので、ぜひ取り入れてもらえればと思います。筋トレと合わせて実施すれば効果倍増です。 - 筋膜の癒着・収縮予防
同じ姿勢をとることが多かったり、日頃のクセなどにより、筋膜が癒着・収縮することがあります。そうなったら根強いコリや痛み、あるいは可動域の制限となって体に不調がが生じることになります。
そのようなときは筋膜リリースで筋膜を正常に戻してあげる必要があるのですが、そうなる前に予防するのも賢い習慣です。
スタティックストレッチで、ほぐす習慣をつけることで、筋膜の癒着や収縮を防ぐことができます。 - 生理痛の軽減(血流改善・副交感神経優位)
生理痛の原因は様々なですが、血行不良やストレスによって発生することがあります。
そのような場合は、ストレッチにより血流を改善させたり、心身ともにリラックスすることで軽減できます。
スタティックストレッチの一般的な実施タイミング
筋トレをするときは、トレーニング前後であることは上述した通りですが、日頃のストレッチはいつ行えばいいでしょうか。
いつ行っても問題ありませんが、効果に差が出るタイミングがあります。
最も効果的なのは、筋温・深部体温が高い時に行うことです。
運動をしていないことを前提とするなら、そのタイミングは、お風呂上りです。
お風呂上りは最も体が温まっているときなので、筋肉が伸びやすくリラックスしてストレッチすることができます。
多くの人にとってお風呂上りは、取り組みやすい時間帯だと思いますので、ぜひ取り入れてみて下さい。
また、眠気解消や肩こり解消、安眠など、その時々のタイミングがある場合は、眠気が襲ったとき、仕事中など肩こりがつらい時、就寝前など、臨機応変に実施時間を決めるようにしましょう。
逆に最も効果が低い(お風呂上りに比べて)時間帯は、朝です。
特に寝起きすぐは深部体温が最も低いため、筋肉が伸びにくくストレッチには適さない時間帯であると言えます。ダメだとは言えませんが、できれば避けた方がいいでしょう。
ただし、朝風呂後や軽めの運動後であれば、深部体温が高くなるため効果的なタイミングになります。
つまり、筋温、深部体温を高めたあとが、最も適したタイミングなのです。
スタティックストレッチは、体が温まっている時に実施するのが効果的であることを覚えておきましょう。
おわりに
このようにスタティックストレッチ(静的ストレッチ)には、筋トレやスポーツなどのパフォーマンスをアップさせるだけでなく、日常においても予防、改善、軽減など心身ともにいろいろな効果があります。
ストレッチを習慣にして自己の肉体と心に向き合う時間を作るのも、とても有意義なことであると思います。
あたながストレッチにより心身ともにいつまでも健康でいられることを願っています。(もちろん筋トレもぜひ)