高血圧が体に様々な悪影響を与えることは知られているところであります。では、高血圧になる前段階(正常~やや高い段階)における予防策として筋トレは有効なのか。あるいは高血圧と診断された場合、医師から運動療法の許可を得た場合に筋トレは有効なのか。高血圧の予防と改善に向けた取り組みを筋トレを中心にひも解いていきます。



筋トレで高血圧を予防・改善できるのか?

今回は、高血圧の予防と改善についての考え方を学んでいきます。

ジムにお越しになる比較的年齢層の高い方に多いのですが、血圧のことを気にされている方がいます。健康診断で血圧が高めだと言われた、あるいはご家庭のご両親・ご家族の中に血圧が高い人がいる、こういったことで少し心配になってお越しになる方もいます。

その方々にとって筋トレを含む運動にどのような効果があるのかということを一番お聞きになりたのだと思いますが、基本的な部分について確認をしておきたいと思います。

高血圧の診断を受けている場合は、必ず医師の判断をあおぐ

予防と改善、似てはいますが大きな違いがあります。

予防は、血圧がまだ高いと確定していない場合。傾向はみられるけど、病気であると診断まで行っていない場合は、予防ということで十分取り組みが可能です。

しかしながら、すでに健康診断や専門医の診断によって血圧が高いと、高血圧症ですということで病名の診断が下されている場合には、主治医または専門医の指示に従ってしか進めていくことができません

素人判断で安易な取り組みをする非常に危険ですので、必ず医療関係者の方の指示に従うように、この部分を忘れないでいただきたいと思います。

高血圧と合併症

そもそも血圧が高いとどうしていけないのか。まずは基本をおさらいしたいと思います。

安静時に何もしていない時でも収縮期の血圧(上)、拡張期の血圧(下)がありますが、これは心臓から血液を全身に送り出して、また速やかに回収してくるということで生命活動が維持されています。

これは一定の圧を保っていれば問題ないのですが、高すぎる場合、逆に低すぎる場合には生命活動を行っていく上で、安定が保てずに問題が生じることがあります。

中でも血圧が高い部分に関して怖いのは血管が破裂することによって起きる病気、脳溢血だとか、心筋梗塞とかは生命の危機、命が助かったとしても後遺症を抱えてしまうことがあります。そのため、高血圧は避けなければいけない状況になってきます。

血圧が高いことについては、余程ひどい状況でなければほとんど自覚症状がありません。気が付いた時にはまずい状況になっていますので、「サイレントキラー」とよく表現されています。水面下で少しずつ悪くなっていって、症状が出た時にはどこかがおかしくなっている、命に影響が出てくるということで、サイレントキラーと呼ばれています。

血圧が常時高い状況が続くことによって起きる合併症というものがあります。

血管に障害が出てくる、腎機能に障害が出てくる、心臓であれば心筋梗塞が進んでいった場合に冠状動脈が詰まってきて破裂する、とった重篤な問題が出てきます。

こういった事を避けるために、血圧が高い状況をどのようにして解消していくかということが大切になってきます。
※高血圧症と診断が下されている場合は、必ず医師の指示・判断を仰いでください。

いろいろなアプローチの仕方がありますが、一般的に言われているのは運動によって血圧の高い状態を少しずつ下げていく、あるいは一定に維持する。

それから水分を摂取して血液がドロドロにならないようにする。

そして、栄養の摂取方法を考えて、やはり血液がドロドロにならないようにする、血管が詰まりやすいような状態を避けるということが我々にできる予防策ということになります。

高血圧と運動

運動を選択する際に、血圧が高い状態を解消していくためには有酸素運動が好ましいと言われています。一般的な常識になっている傾向もあります。

血管の中を流れている血液の状態がドロドロであると当然流れにくい状況になります。それをさらさらした血液に変えるためには強度をある程度抑えて、長く持続的に血圧に負担をかけない状態で安静時よりもややきついくらいの負荷をかければ十分に効果があるといったことで、有酸素運動を奨励されているケースが多いです。

高血圧と筋トレ、大きな誤解

一方、筋トレについてはあまりいい認知のされ方がされていません。

例えば、筋力トレーニングで力むと血圧がその時に上がってしまうので、動脈硬化が進行している人のような場合は、非常に重篤な状況に陥ってしまうというようなことで、筋トレはダメだと、NGが出されているのが普通です。

実際にトレーニングジムを経営しておりますと、ジムに通ってこられる場合にすでに血圧がやや高めであると申告をされる方がいます。

特に年齢の高い方については、注意しながら本人が問診票などに書き込めてない部分もあるでしょうから、必ずヒアリングをして血圧について問題はありませんかとか、頭が痛いことはありませんとか、ご家族の中に血圧の高い方はいらっしゃいませんかとか、言うようなこともしっかり聞きだすようにしています。

そうした中で血圧について問題がある可能性を持っている方々についての運動指導を行っていくわけですが、我々のトレーニングジムでどういった運動プログラムを組んでいくのかというと、やはりそこは筋力トレーニングになります。

世間の一般では、筋トレをすると血圧が上がってまずいと、言われていますが、我々の施設では筋トレのプログラムを組むわけです。

おかしいじゃないか、大丈夫なのか、危なくないのかとご心配される方もいらっしゃるんですが、実際にやっていただければ全然問題はなく実行ができています。それどころか継続をしていくうちに血圧が徐々に下がっていくということがほとんどの方で確認ができています。

何が違うのかというと、筋トレをするときに高い負荷をかけるということがイコール筋トレになるというように、その筋トレをやっている中の瞬間的な部分を見て筋トレと評価をしている方が多いように認識しています。

目的によって筋トレの方法や負荷のかけ方が違う

筋トレに限らず、すべての運動がそうですが、今まで運動習慣を持たなかった方々は、当然これから運動をするまでの間に「慣れる」という段階が必要です。

特に筋トレの場合には、重いものを持って動かなければいけないので正しいフォームで行わなければ、物理的な負荷によって関節や筋肉等を傷めてしまうという問題が出てきますので、当然のことながら最初は軽い負荷で、本人の感覚としてはもう少し重いものを扱えると、あまりきつくないと思われたとしても最初はフォーム作りからしっかりやっていくのが手順であります。

そうしますと本人の能力の方が高いところにありますので、軽い負荷でフォーム作りをやっているときはトレーニング自体で何の影響もなく、筋肉が肥大するとか、筋力が上がることはまずないわけです。

しかし、フォーム作りをやっていくことが一番大事になってきますので、まずは正確なフォームができることを、しっかりマスターしていきます。

徐々に慣れるにしたがって、少しずつ負荷を上げていきますが、負荷の上げ方についてもおそらくほとんどの方が思っていらっしゃるよりは、非常に進度は緩やかな状態になります。

なぜならば、競技選手がコンマ1秒だとか、1kgというものを記録更新のためにどんどん負荷をかけてチャレンジをしていくのに比べて、健康づくりを目的としている方々にとっては自分の寿命が続く限り一生続けていくことになりますので、一時的に高い負荷に挑戦するというようなことは、あまり大きな意味を持たないわけですね。

それよりも計画的に少しずつ進めていくことの方がよほど重要で継続以上に大事なことはないわけです。

従いまして、筋トレを開始する場合に血圧が高い方であっても最初は慣れることから入りますので、負荷の大きさについてはあまり気にする必要があります。

まずは、どのような動きをするのかということを正しく認識して、何度やっても確実に同じフォームができるという再現性を高めていくことが一番重要になってきます。

徐々に負荷を上げていく

フォームが安定してきたら徐々に負荷を上げていく。その負荷に関しても「重さ」、「速度」、「反復回数」、「セット数」、「インターバル」などがあります。

「重さ」は、使用する重さ、重量ですね。例えば、ダンベルが5kg、10kgなどですね。そして、動かす時の運動の「速度」、何回繰り返すことができるかという「反復回数」。さらに反復回数のひとまとまりを「セット」と呼びますが、何セット行うのかという「セット数」ですね。そして、セットとセットの間にとるインターバルの長さによって負荷をコントロールしていきます。

どのくらいの負荷がかかっているのかということに関して、筋トレの定義は非日常的な負荷をかけることです。

これは過負荷の原理に従っているわけですが、普段の安静時、日常生活の中で行っている身体活動の程度を日常的と判断するならば、それよりもややきつめの負荷がかかっていれば、筋トレとして捉えていいわけです。

そこにいたずらに大きな負荷をかけて、へばってしまうようなことをやる必要もありませんので、そこはご安心ください。

まずは、ある程度の負荷をかけてできるか、できないかをジャッジしながら、ちょっときついと思うようなときは全然減らしても構いません。反復回数についても頑張って少ない回数しかできないというのであれば、重さを軽くして反復回数を増やしていけば反復1回あたりの強度は下がっていきますので、それほど体が疲れることもなく運動することができます。

全体としてトレーニングのまとまったボリュームが終わった時には、いい感じの疲労感が得られるというような状況で捉えていただければ結構です。

反復回数に関しては、使用する重さ、そしてその時に行う運動の速度、そこから導かれるリズム・テンポ、こういったものによって自然と反復回数は決まってきます。反復回数を定義するのであれば10回以上、20回前後とか比較的多く回数をこなしてあげる方が運動の強度としては緩やかになりますのでオススメができます。

やっていった中で必ず経過観察として運動前、運動後、そして日常の安静時に血圧の測定を行いながら、体調と相談して行うということが重要になってきます。

以上のように、筋トレには様々な方法や負荷のかけ方、あるいは段階があり、一面的に「筋トレ=きつい」といったものではありません。その人の目的、状態、状況によって筋トレの内容が変わってくることを理解してもらえればと思います。一般的には筋肥大や引き締めなどボディメイクすることと筋トレが結びついていて、きついトレーニングをすることが目標の体を作る上で欠かせないという認識が広がっていますが、ここでは目的よってトレーニングの処方が異なることを理解して下さい。

水分摂取と食事

運動中にも発汗によって汗で水分が出ていきます。また、途中でトイレに行って用を済ませると体の中から水分が失われていきます。体の中から水分が失われて血液が濃縮していくことによって血液はドロドロになっていきしますし、血圧は当然のことながら上がっていく傾向に陥っていきます。くれぐれも脱水が起きないように常時水分の摂取、特に中に水溶液として何も溶け込んでいないような「水」を豊富に取りながら、運動の前後で体重が変わらないくらいの意識で、途中で体重を図るなどしながら行っていただくことをオススメします。

塩分をあまり多く摂り過ぎると、血圧にとって悪影響があるということは一般的な常識になっています。

しかし、塩分そのものにこだわるよりも、まずは水分をたくさん摂ることです。それから水分を摂ったことによって体がむくんでいないか、もしむくみが多い、おしっこに行く回数、頻度が少ないとなれば塩分の摂り過ぎの可能性も十分考えられますので、その場合は食事を見直す必要があるでしょう。

ただ、発汗も正常で、水も摂っていて、トイレにもよく行く方であるということであれば、そこまで深い心配はなさる必要はないと思います。

また、血圧を高くしないためには血管の弾力性も重要になってきます。

動脈の柔軟性を高めるサプリメントとして近年エビデンスもたくさん報告されているものの中にアルギニンというアミノ酸があります。ドラッグストア等に行って薬剤師の方に相談をするとか、サプリメントに詳しい方に相談をして、アルギニンが自分に必要なアミノ酸であることが認識できましたら、ぜひ運動と一緒に併用して摂取していかれることをオススメしたいと思います。

終わりに

繰り返しになりますが、高血圧の改善の部分については、程度にいろいろありますが一般的には上の血圧・収縮期が140mmHg、下の血圧・拡張期が90mmHg以上であれば高血圧であるという判断になります。

こういう診断が出ている場合は決して素人判断ではなく必ず医師に相談をして運動してもいいのかどうか、やるのであればどのくらいの強度でやればOKなのかということを確認した上で、必ず継続していくような取り組みを行っていただきたいと思います。

運動に関しては、筋トレでもそうですし、有酸素運動でもそうですが、やっている間にしか効果がありません。効果が出たからと言って運動を中断してしまうと、また元の状態に戻ってしまいますので、ぜひそのことも忘れないように日々の生活習慣の中にうまくセッティングできるようなボリュームで設定をしていただければと思います。

やり過ぎる必要はありませんし、やらな過ぎるとまずい、毎日続けることができる程度のことで十分健康度を改善することができます。高血圧の予防にも繋がりますし、すでに今状態が悪い場合の方(医師から運動許可が出ている方)でもいい状態に好転させていくことが可能ですので、積極的に取り組んでいただければと思います。

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筋トレTV 出演・動画監修 森部昌広 先生
九州共立大学 経済学部准教授・経済経営学科スポーツビジネスコース主任・サッカー部部長、一般社団法人全日本コンディショニングコーチ協会代表理事、一般社団法人日本メンタルトレーナー協会理事、九州大学非常勤講師(健康・スポーツ科学)、財団法人福岡県スポーツ振興公社スポーツアドバイザー、株式会社GET専務取締役、アイ・エム・ビー株式会社取締役、森部塾塾長